国内外で免疫細胞の研究に取り組む
海野
山田先生は早くから皮膚と老化の関係性に着目され、抗加齢医学の最新情報に精通されています。
山田
近畿大学を卒業後、大学病院の皮膚科に入局しました。皮膚科と形成外科がまだ分かれてない時代で、手術も救急治療も行なってました。入局後の研修で、皮膚科医の権威であるハーバード大のフィッツパトリック先生にお会いしたときに「若い医師は10年間は基礎をしっかり勉強しろ」と言われたのがきっかけで、大阪大学の細胞工学センター、ウィーン大学、米国ベセスダNIH免疫学教室で基礎研究を行い、主に免疫細胞の研究をしていました。
海野
免疫細胞や細胞間脂質などが発見され、近代皮膚医学が華々しく開花していたころですね。
山田
その後、国内外での学びを生かせるのは「アトピー性皮膚炎の治療」と言われて大学病院の臨床に戻りました。アトピー皮膚の研究が進んできた時期ですが、患者さんの症状がなかなか改善せず、大変でした。
海野
その頃アトピーの治療は、原因も治療法も決め手が無く、ステロイド系の塗り薬の処方が多かったですね。
山田
アトピー性皮膚炎の治療に苦労していたころ、テレビのニュースショーで「塗り薬のステロイドは毒だ」という発言がありました。翌日から皮膚科の外来はパンク。診察が終わるのが夜中になり、患者さんから「お前ら毒を処方してたのか!」って、怒鳴られる。研究の時間も無くなってしまいました。
さらに「絶食したら良くなった」などという患者さんもいて、僕は混乱し始めました。自分が学んだ知識や経験で説明ができないんですから。そんな状態で2001年に日本抗加齢医学会の前身である、日本抗加齢医学研究会の第1回が開催されて、参加してみたら講演する人が全員、おかしなことを言うんですよ(笑)。「温泉で調子がよくなった」とか。
僕は水とか温泉療法にも興味があって、ウィーン大学時代にスパや温泉施設を回りました。海水を使うタラソテラピーは、アトピーの患者さんには確かにいいんですよ。でもそれは世間から「アトピービジネス」と言われてたたかれてしまう。
ところが抗加齢医学の研究会で発表する彼らは、ベーシックリサーチも行なっていて、奥が深いわけです。単に「やってみたらよかった」ではなく、本質的な何かがあるよねと話し合える。新しい領域の医学ができたと思いました。
抗加齢医学の道へ
海野
それが抗加齢医学の研究へのきっかけだったのですね。
山田
その後、サーチュイン遺伝子(老化や寿命の制御に重要な役割をする)とかが発表されて、一気に老化のメカニズムの解明が進みました。どの講演や発表を聴いても面白いんです。なんで?って思っても、それを説明してくれるような発表があり、議論ができる。
海野
受精から始まるヒトの一生と全身に関わる全てが研究対象と感じます。
山田
そう。ヒトゲノム(ヒトの全遺伝子情報)の解読は2003年にほぼ完了しましたが、最近は遺伝子だけでなくエピジェネティクス(環境によって遺伝子が働く)も注目されています。たとえば、遺伝子が同じ一卵性双生児も、年月が経つと大きく違いが出てくることがありますね。この理由はエピジェネティクスなんです。
海野
優れたアスリートの遺伝子は、スポーツができる環境があってこそ働く、ということですね。
山田
もうひとつ、僕らは美に対してすごくこだわりがあります。美しいものに憧れるのはなぜか?という疑問をずっと感じてました。2022年に発売された「進化を超える進化」という本の著者、ガイア・ヴィンスさんによると「人類の進化には4つの要素がある」と。それは「火」「言葉」「時間の概念」、そして「美」。人類の進化に美が関わると書いています。
建築とか室内の装飾、服飾とか全てに、古代から美を加えて作っている。それが我々の進化に繋がったと。時代と共にデザインは変わるし、新しい物の方が僕らは綺麗だと感じる。それは「見た目」に「メッセージ性」があるからでしょう。
だから僕は、日本に形成外科をもたらしたお一人である塩谷信幸先生(北里大学名誉教授)が2008年に「見た目のアンチエイジング研究会」を立ち上げると言われたときにすごく嬉しかったんです。
「老化は病」という考え方
海野
「見た目のアンチエイジング研究会」は外見を老化の指標の一つとして研究、検討する医師の研究会ですね。
山田
見た目にはメッセージ性があるから、化粧や美容領域の医療があるんですよ。
クレオパトラより前の時代から続いてる。またイギリスの社会学者キャサリン・ハキムさんが2000年代初めに使用した「エロティックキャピタル」という言葉があって、「見た目は第4の資産」と断言した。
見た目が「価値」や「資産」となるから、大切にするし美しさを望むし、磨き上げて維持しようとするわけです。
海野
美の追求が進化に繋がり価値ある資産になるというのは、腑に落ちます。
山田
抗加齢医学が目指していたのは「健康寿命の延伸」。老化の速度を遅らせて機能低下や病気を防げれば健康で長生きできる、という議論をしていました。しかし今は「老化は病(やまい)」という考え方になってきています。
山田
日本やWHO(世界保健機関)では「疾病、障害及び死因の統計分類」という統計を取っています。
WHOにはICDという国際疾病分類があり、たとえば「免疫系疾患」とか「睡眠・覚醒障害」とか。その分類に「老化関連疾患」が加われば、老化による病気の統計が取れて治療法も作っていける。
老化は機能低下と病気を引き起こす。だから「老化は病」。そう定義することで医療が関われる。「老化関連疾患」の予防と治療ができるようになります。老化をこの基本コードに入れるべきです。
海野
体の機能低下を遅らせて、健康を維持することが抗加齢医学だと?
山田
そういうことです。
重要なのは運動·栄養・精神・環境の4つ。以前は最重要が食事でしたが、今は運動。精神の中には「脳」「睡眠」も含まれます。睡眠時間は短いのも、長いのも良くない。運動をしっかりして、食事は食べ過ぎず栄養も適切であること。強いストレスも良くない。
環境は高湿度、低湿度、高温、低温でも良くない。4つ全てををできるだけ良くすることが健康のために重要というのが現在のメッセージです。
再生医療に取り組む
海野
山田先生は2021年から日本抗加齢医学会の理事長ですが、その活動は。
山田
抗加齢医学専門医を認定しています。
専門医、指導士(看護師、薬剤師、歯科衛生士などの有資格者)で2,000名ぐらいになりました。教科書は改訂4版まであって2023年6月には4版の日本語版と9月には英語版e-bookが出る予定です。世界で最高レベルのアンチエイジングの学会だと思います。
山田
再生医療による美肌治療や、体のエネルギー活性に働くNMNでの治療などを行います。将来の自分への投資として、年齢に関係なく受けていただけます。アンチエイジングは研究も治療法も進化しています。効果やリスクについて議論もしていて、その方に向く治療法の提案をさせていただきます。
海野
NMNサプリメントや16時間断食のような健康法は体に良いですか?
山田
食事のサポートとしてサプリメントを活用するのも良いと思います。断食については、ストレスになると期待する結果が出ない可能性もありますが、消化器は休ませられますね。健康法は「これをしたからこうなる」というものではないので、自分で経過を観察する、検査で変化を見ることも大切です。
海野
「自分はまだまだ若い」と日々、思うことが大事だと聞きましたが。
山田
ものすごく大事。若返るというよりは老化を遅らせる。老化の速度が上がったように感じたら、運動量を増やす、サプリメントを足すなどもいいかもしれません。
効果がわかっているのはカロリーリストリクション(カロリー制限)。1日の摂取カロリーを70%〜80%にすると、3ヶ月程度で老化にブレーキがかかる。ただ、痩せ型の人は医師に事前相談を。科学的な証明があるエビデンスに基づいた行動が良いと思います。
年をとっても「ありのままに」「自然のままに」という考えを日本人は好みますが、「機能の回復」「若返り」も可能になってきた時代です。抗加齢医学で心身の機能を維持して「こうありたい」自分に変えていけることを知っていただきたいと思います。
私が診察をおこなう『
アンチエイジング外来』もぜひご利用ください。