国立病院、都立病院などで形成外科医として経験を積み、2020年より自由が丘クリニックで形成外科部長として勤務している古山恵理医師。
約3年間アメリカで生活、現地の美容医療についても学び、2024年4月帰国し診療再開予定。日本形成外科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。
妊婦の方が妊娠・出産で気になることと言えばなんでしょうか。
日本とアメリカで入院や育休など制度の違いを挙げればきりがありませんが、日米ともに、妊娠線、産後ダイエット・体型の戻り、またはシミ(特に肝斑)などが、特に共通で話題にのぼります。 今回はそれらについて考えてみたいと思います。
まず妊娠線について。妊娠線とは妊娠中に腹部の皮膚に出現する線状のいわゆる肉割れのことです。
これは赤ちゃんと赤ちゃんを包む子宮が、妊娠中にお母さんのお腹の中でどんどん大きくなることでお母さんのお腹の皮膚が伸びて生じます。つまり妊娠の自然な経過であり、異常ではありません。
2015年の英国皮膚科学会雑誌に掲載されたミシガン大学の論文では、妊娠線は妊婦の50%~90%に発生すると言われているほど、多くの方に見られます。急激な体重増加、妊娠線の家族歴がある、痩せ型、小柄、乾燥肌の人などにできやすいと言われますが、日米ともに予防のために毎日クリームなどで保湿を行なっている方が多いです。保湿は妊娠線があるかどうかに関係なく、妊娠中の皮膚の痒みを軽減することにも役立つのでおすすめです。
妊娠線は通常出産後に薄くなりますが、時間が経っても気になる場合には、クリニックを受診してトレチノイン軟膏などを処方してもらう、または「レーザー」や「ダーマペン」、ご自身の皮膚を利用しお肌の回復力を高める注入治療「リジェネラ」などで治療するという方法があります。
次に、体型の戻し方に関して。日本では骨盤ベルトは妊婦がみんな持っていると言ってもいい一般的なアイテムですが、アメリカではそのようなものはあまり見かけないように思います。
しかし、日本のような育休制度がないアメリカでは産後の仕事復帰も早い方が多いです。そこで、アメリカのクリニックによると、産後に体型を戻すため、伸びた腹直筋にEMS治療(筋肉などに直接電気刺激を与えて筋肉を動かす治療)を受けたり、デバイスを使用したりする方も多いのだとか。
無痛分娩の割合が高いことからも、アメリカでは幅広く医学を積極的に取り入れているように感じます。
最後に肝斑に関して。なぜ、妊娠中に肝斑が濃くなるかというと、妊娠で活発に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)が関係しています。
プロゲステロンは、メラニン色素を作る細胞に働きかけるため、妊娠中は、シミ・ソバカスの色が濃くなったり、他にも乳首や脇の下が黒ずんだりします。通常、シミ治療にはメラニンを薄くするためにハイドロキノンなどの軟膏を使用するので、アメリカでは妊娠中でも肝斑(シミ)に対してこのハイドロキノンが処方されることも。
一方、日本ではこれらは胎児に直接の影響はないものの妊娠中は肌の状態が不安定でかぶれなどのトラブルを起こしやすいと考え、積極的に処方しない医師が多いです。そうなると、日本では妊娠中の肝斑にはなす術がないのかと諦める必要はありません。
肝斑はホルモンの変動と紫外線暴露によって引き起こされるので、妊娠中に日焼け予防に力を入れることもかなり効果的です。また、ビタミンCなどの美白系の基礎化粧品でケアをするのも良いでしょう。
そして肝斑も、産後しばらくすると改善することが多いですが、それでもシミが気になるようでしたら、クリニックでの治療を検討しましょう。
「IPL(フォトフェイシャル ステラM22)」や「レーザー」などの照射系の治療も、授乳が終わった頃から行えることが多いですのでご相談ください。